春は来ないと、彼が言った。



「…なにしてんだ、お前ら」



怒りを極限にまで押し殺したような、地獄の地底を這うような低い声が、後ろから聞こえた。


その声に聞き覚えはある。

昨日、いや毎日すぐ側で聞いている声だ。


ぶわっと、得体の知れない悪寒がわたしを襲う。

背中をだらだらと流れる冷や汗が、尋常じゃない威圧感を物語っていた。



「ひっ…!?」



睦くんはふわっと身体を離すと、今度はわたしの肩を抱いた。

あまりにもさらっと一連の動作をされたため、抵抗の一つも出来ない。


目の前には、ごうごうめらめらと音が聞こえてきそうなどす黒いオーラを纏った恢がいる。