春は来ないと、彼が言った。



さらり。


ごく自然な動きで、恢の手がわたしの髪を撫でた。

触ったって直らないよ。

そんな軽口を叩けるほど、わたしの心臓は落ち着いていなくて。


どきどき、ばくばく。

持久走1000Mを走り終わった後みたいに、心臓が飛び跳ねた。



「(かかかかかか恢に触られてる!!か、恢にっ!!)」



髪から伝わる感触の所為でくらくらした。