春は来ないと、彼が言った。



これが今から好きな人に会う女の子のセリフかな…。


ちょっと不安になりながらどたばたと廊下を駆けて玄関に下りた。

心配そうに声をかけてきた母に、行ってくるねと短い言葉を投げつけて。


ぐっと、ドアノブを握る手に力を入れた。


扉の向こうには恢がいる。

それだけで。


今にも顔が茹だってしまいそうなほど、ドキドキした。