春は来ないと、彼が言った。

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「じゅっ…10分待ってて!!」



家の前にいた恢に向かってそう叫んだのは、咄嗟の判断だった。


返事を待たずにベランダ用のサンダルを脱ぎ捨て、逃げるように部屋に駆け込む。

慌てて制服を着て、鞄を引っ掴んで。


朝食を取る余裕なんてもちろんなく、わたしは洗面所で鏡と向き合った。


寝癖、いつもより少なめ!

よ…よしっ!