ある春の日の事だった。
僕は学校行事の舞台でピーターパンの妖精役をやらされる事になった。


ティンカーベル…


「女じゃないか」


ボソリと呟く。
すると同時に、フワリと気配を感じた。



「岩松光太くん―…
だよね?」


声の方に顔を向けると、
新任教師の桜井先生だった。


クラスの男子…
クラスだけじゃなく

学校全体、女子までも…
皆が口を揃えて『綺麗』だと言う。


僕もその一人だった。



「ここ、立ち入り禁止な筈やけど…
まあいいか。

私も黙って入っちゃったしな」


少し訛りのある言葉もまた…
すごくいいと思った。



「そっか。
舞台の台本…練習してたんやね。

ええなあ。
私妖精って好きやねん」


その時の先生の笑顔は、
とても可愛かった。

最初はのり気じゃなかった。


でも、なぜか…
この日を境に真剣に演技の練習をするようになった。



『私妖精って好きやねん』



その言葉をずっと思い出しながら―――…




「妖精って…
実際いたらどんな感じなんだろう?」



きっと、
桜井先生みたいに綺麗なんだろうな。


少しはにかみながら台本を読んだ。
それが凄く幸せだった。



それが“恋”だと気付くのは、
まだ先の事だった。