「バカですね…君は」

遼さんは涙を指でふき取りとってくれた。

今までに見たこともないような、
穏やかな微笑みで。


その瞬間胸がきゅうと締め付けられた。

胸が苦しい、感覚。


単なるドキドキとはまた違う、
切ないような感じだった。




「僕に好かれようなんて、
百万年早いですよ」


そう言いながらも、
優しい顔。

優しい仕草。

それが嬉しくて私はニコっと笑った。

「…ヒック。
これからはうじうじしないで、
前向きに頑張るって決めたんです…
覚悟してて下さい!」


私が元気よくそう言うと、


まだ泣きじゃくっている私の頭をポンポン撫でながら…

そっと優しく抱きしめられた。



甘い香水の香りが胸一杯に広がる。


真っ赤な顔をしている私を覗き込み、
鼻で笑う遼さん。


またその仕草が、
可愛いって思ってしまう私は変なのかな。



「ほら。行かないんですか?泣き虫。翔が待ってますよ」

「はい!」



赤の他人から一歩前進した気がして、
私は心の中が温かくなった。