遥かな、遠い昔。
それはハダサと呼ばれていた頃の記憶。
〈龍族〉という特権階級が幅をきかせる、歴史古く広大な領土を誇るカスタリア共和国。
ハダサはそのカスタリア共和国の〈龍族〉の子息で、当時、陸軍に籍を置いていた。
その日、ハダサは軍の執務室に座ったまま、凍りついたように動かなかった。
まばゆいばかりの金色の髪と、蒼い瞳が印象的な青年だ。
引き締まった体つきをしているが、それは軍人らしい屈強さというよりは、野性動物のようなしなやかさを備えた細身の体躯だった。
顔立ちは涼しげだが、双眸にはいつも荒々しい光が宿っている。
しかし、今日のハダサにはその荒々しさは微塵も感じられなかった。
どころか、深い苦悩に打ちのめされたように、瞳にも力がない。
国境付近に駐屯している兵から矢のような催促がなされているが、今のハダサには決断する思考力すら残されていなかった。
