「おい…お前こんな時間に何して………」


目の前にいる男の人は、そこまで言って言葉を失っていた。


理由は多分ー…。


あたしが泣いていたから。

「…ふぇっ…うぅっ…ぐすっ……」


涙が止まらない。生まれて初めて、こんなに恐い思いをした。この人が助けてくれなかったら…どうなっていたか…。


「……泣いてるのか?」


男の人は座り込むあたしの目の前にしゃがみ込んだ。


「…大丈夫だ。もういないだろ…。だから泣くな」


男の人は自分の袖で優しくあたしの涙を拭ってくれる。


「…うん…………」


あたしが頷くと、男の人は小さく笑って頭を撫でてきた。改めて目の前の男の人を見上げる。


黒くてサラサラな髪。感情を宿さない瞳に無表情な顔。とても綺麗な人…。そう思った。


男の人に綺麗なんて失礼かな…?それでも、純粋に綺麗な人だと思った。


「何でこんな時間に…こんな所にいるんだお前は」


少し咎めるように言われ、あたしは俯いた。地面に転がっているリュックをギュッと抱きしめる。


「…お前……家出か?」


あたしの荷物を見て納得したように呟く。あたしはコクンと頷いた。