屋上から教室に戻る途中、彼はぽつりと僕に尋ねた。



「楠木、わかることが多いって、苦しくない?」





人の事、周りの事、色んな事の混ざった質問に、僕はただ曖昧に笑う事しか出来なかった。
僕が感じている事が正しいのかなんてそもそもわからないし、そんな考えてもしかたないようなことに難しい顔をしても、とも思うし、
もう、それが苦しいのかどうかなんて、僕にはわからなくなってしまっていたから。



廊下の窓を曲がった所で偶然出くわした九ノ月サンが、柏原に話し掛ける一瞬前に僕を一瞥したその目に、なぜ胸騒ぎを感じたのかは、もう少し後に知る事になる。














それから数日たったある日、僕がいつも通り帰り支度を終え本を読んでいると、九ノ月サンが教室に入ってきた。







「あれ?九ノ月サン、部活は?」

「え?あ、今休憩時間」





彼女の所属する管弦楽部は毎日練習のためこの時間に話をするのは初めてだ。

彼女は僕に話があると言ったきり黙ってしまった。




どうしたんだろ……?

いつもすらすらと言葉を発する彼女には珍しく、なかなか喋らない。
内心首を傾げていると、彼女はようやく口を開いた。


「あの、サ…カヤちゃん、私が京介クンの事好きなの、知ってるよね…?」



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