季節は春。


「おーい、葵ー」

間抜けな声が私を呼ぶ。

「なにー」

一人で絵本を読んでいた私は、呼ばれるままに声の主の所へ走った。

声の主――父さんは、顎に生えたまま剃っていない無精ひげをさすりながら言った。


「花見に行こうか」

いつも下着同然のだらしない格好をしているけれど、外出するからかいつもよりはまともな格好をしている。

だらしないことには変わりないけれど、そんな父さんの誘いを断る気にはなれなかった。


「しょうがないなぁ」