そう、私は漫才師。

本松珠希っていう名前だけど、芸名はないので、そのまま「タマキ」ってことにしている。

…といっても、1年目の超がつくほどの下っ端。

今日は東京の郊外にあるビルの屋上で久々の漫才ショー。

お客さんは、10人くらい…。

そりゃあね、冬だし寒し郊外のビルの屋上なんだから、お客さんが少ないのは分かるよ。

でも、10人の内5人が途中でいなくなって、残った5人の内誰も笑ってないなんてあんまりじゃない?

今後はこんな予定のショーなんかなーんにもないから、明日から毎日毎日ただひたすら公園で練習するだけ。

バイト・大学・漫才の練習…これがローテーションで回る私の日常。

それでも、この相方がいるから何とか楽しくやってるつもりだよ。

相方の名前は大宮晴貴。晴貴とは高校で知り合って、互いに『面白い奴』って印象から、漫才師を目指すようになった。

晴貴が漫才しようって声かけてきたの。

私は密かに晴貴に恋心を抱いてるんだけど…

多分晴貴はなーんにも考えてないだろうね。

コイツ、超鈍感だし。

だけど、告白はしない。
私からはしない…ってか出来ない。

だって、それでもし恋が破れたと同時にギクシャクした関係になったら、漫才なんて出来ないし、何より晴貴と話すら出来ない状態になるじゃん。

そうなったら私、生きてけないよ…。



「ねぇ、晴貴」

私は隣りで煙草を吹かしている鈍感男に声をかけた。

「私たち、売れるかなぁ」

晴貴は空に向かって煙を吐きながら言った。

「多分、売れるさ」