「滝沢先生…」


そこにいたのは普段の馬場さんではなかった。


今日は笑顔で挨拶してくれない。


「忘れ物?」


「あ、はい…。」


明らかに様子が違う。


先程の哀愁も消え、変わってしまった彼女に不安になった。


今にも消えてしまいそうな危うさを身に纏っていた。


「さようなら。」


馬場さんはまた俯いて歩き始める。


あたしと同じ段まで登ると、ピタリと足を止めた。


「滝沢先生、世の中奇跡って起こると思いますか?」


あたしの返事を聞かずに、馬場さんは話し続ける。


「あたしは無い気がします。
信じたいけど、人の精神を安定させる為の迷信みたいなものかなって…」


馬場さんは力なく微笑もうとしていた。


でも笑えてなかった。


「滝沢先生は?」