やばい。

これは、地味にやば過ぎる。


突然、トークが止んだ私の異変に気付き、さすがの課長も仕事をしていたらしい手を止めた模様。


「どうした?急に黙り込んで」

「……」

「悪かった。ここのところ仕事が立て込んでいて、ろくに電話も出来なくて。
その上、電話しながらの仕事は……」

「……課長」

「どうした?」

「あの……」

「なんだ?何かあったのか?」

「あの……私……」


ゴキュッと唾を飲む。


ああ。

私バカだ。

こんな大切なこと、忘れちゃってたなんて!

もう、課長に顔向けできない失態です。


私はちょこんと正座すると、ケータイを握り締めながらフカブカ~と頭を下げる。


「すみません、課長。私、NYには行けません」

「何があった?」

「課長、きっと、怒ります」

「怒らんから言え」

「いいえ。きっと怒ります」

「怒らないよ」

「いえ。絶対怒るに決まってます!」

「怒らないさ」

「信用できません。課長、すぐ怒りますから」

「怒らないから、さっさと言え!!」


ほら。もう怒ってるじゃないですか。

反論し掛けて、ポロリと涙が……。





「……パスポート、申請するの………忘れてました」





受話器の向こう側で、何かがゴトリと音を立てて落ちる音がした。