「どうしてそんな無理をさせた!」
「もう…止められなかった。あんなに楽しみにしていたんだ。たった一度だけ叶えられるかもしれない、たった一度だけでもいいから、やらせたかった…」
「結果、これかよ…こんな…」

なにもかも、冷たかった。
くすんだストラト、
くしゃくしゃの楽譜、
雨に濡れた肌、それ以上に、
消えていく彼女の温もり。

僕は彼女の兄に取り返しのつかない現実を
責められた。
雨足がさらに鳴り響く。
いつまでも呆然としていた、
僕をそっちのけで、
泣きわめいていた。

彼女は、覚悟していたのだろうか?
こうなることがわかっていたのだろうか?

こんな風景を見せるんだって、
でもその先の光景まで、

考えているわけはないか…。

「早く出ていけ…」
「…」
「思い出と引き換えに命を奪いやがった、お前らの青春は汚れちまってる!」
「…」
「ああ、せいぜい後悔してやってくれよ」

僕は動けなかった。
やがて、引きずり出されて部屋を後にした。



ライブ会場は彼女が死んだ事実を知らないまま、
クライマックスを迎えていた。
たった一曲、ステージから鳴り響いた、
あの瞬間は彼女の兄が言うように、
青春という綺麗なフレームに
やがて黄ばんで消えていくだけで、
あの瞬間、あの歓声は、
藻屑のように掻き消されていた。

僕はそれを思ったときに、
初めて空しさと、
勢いの気持ちを呪った。
壁にもたれかけ、轟音に頭傾けて
泣き叫んだ。

エレクトロリックサーカスが聞こえる。
君はあの歌のように散っていった。
澄み切った色のその先へ。



僕たちに明日はなかった。
僕はまだわからない。
残された鳥は、
灰色の空を舞う、
そんな現実が、
残されたもの。

「花は咲いたんだ。たった一度、芽吹いたんだ」

夜は明け、皆がそれぞれに散る。
僕は知らぬ世界へ、道しるべも無しに
飛び出していく。

そうだ。
愛に応える術を見失ったままで、
僕は歩きだした。