男は私の話をさえぎるのが申し訳ないといった感じで、


「次中野だよ」


と言った。私はハッとして窓の外を見る。でも夜だし、はじめての土地だから見ても意味はなかったが……。


「もう、着いたんだ……」

「うん。俺は吉祥寺までだから……」


そんなことを話しているうちに電車は中野に滑り込む。あっという間だった。


「本当に、ありがとうございました」


私は感謝の気持ちを伝え、電車を降りた。降りたあとも男がこっちを見ている。私が手を振ると、男は軽く頭を下げた。扉が閉まっても私は男をずっと見ていた。硝子の向こうには男の斜め顏が見えている。もう、こっちは見ていない……。どこか違うところを見ていた。

私は、走り出した電車をいつまでも見つめていた。静まり返った駅のホームで一人取り残されながら、男が乗った電車を見つめていた。