「咲、俺はいつでも待っていますから」
淵の中に入ろうとするインキュバス。
これが別れなんだろう。
「あ、ストップ!」
私の言葉に止まったインキュバスにあるもの渡す。
肉まん。
「せっかくだからやる。美味しいんだから、これ」
「ありがとうございます。大切にします」
「いやいや、食えよ、きちんと」
こくりと頷く奴が背を向けた。
淵が閉じる。
後に残ったのはいつもの光景。
「あっけない別れねぇ」
「別れはそんなものだ。後に残るのは思い出だけなんだから」
「寂しいわぁ」
ちらちらと私を見る奴。
ああ言いたいことは分かっている。


