「これだけ、言いたかったの」


次は梨沙の番、というように麻弥は、自分の話を終わらせた。



そして梨沙はなぜか俯いていた。



――ぎゅっ。



いきなりあたしの右手が梨沙の左手に包まれた。


「肘曲げたままでいいから、軽く手あげて」



手をつないだまま梨沙は話しはじめたけど、意味はまったくわからない。


「??…こう?」



麻弥は不思議がりながら梨沙の言うとおり、耳の高さくらいに手をあげた。


すると、梨沙の左手がぴくっと動いた。




「名前を呼ばれるのは、別に嫌いじゃない」



梨沙がそう言うと、あたしは繋いでいた右手を軽く引っ張られた。


そのまま麻弥に近づく。




―――パンッ




手と手が一瞬重なった音。

ハイタッチと同じ音。



……それは、梨沙と麻弥の手。




梨沙は麻弥の横を通り過ぎる。

あたしもそれにつられる。



梨沙は麻弥の残された手を背に、



「またね、麻弥」




……と。





そしてあたしは梨沙に引っ張られながら体育館を後にした。