「柳沼さん」

 教会に入ろうとしたとき、女の人が父親を呼び止めた。


「サエ……ああ、これは水島さん。来てくれたんですね」

 父親が改まって名字で呼んだ女性は地味な黒いワンピースを着ていたが、整った顔立ちと清楚な雰囲気が勝り、見栄えを引き立てていた。


「お嬢さんですか?」


「そうです」


「こんにちは柳沼亜里沙です」

 亜里沙は両手を前で組んで深くお辞儀した。


「私は水島サエコっていいます。よろしくね」

 水島サエコと名乗った女性は身を屈めて亜里沙と視線を合わせるとニッコリ微笑んだ。


「今日はお一人で?」


「はい」


「わざわざ参列してもらって申し訳ありません」


「いいえ、柳沼さんにはお世話になりっぱなしですから。またあとでお話しましょうね
亜里沙ちゃん」

 水島サエコは長椅子が祭壇まで規則正しく左右に並ぶ真ん中の間を優雅に歩いていく。