「今日はどんな願い事をしたのかな?」

 何事もなかったかのように父親が話しを変える。


「窓から見える木を全部切ってほしいって神様にお願いしたの」

 亜里沙は跪いて神様に願い事をするのが日課になっていた。


「全部?どうして?」

 父親は首を傾げて訊き返す。


「夏になるとセミの声がうるさいから」


「なるほど、鉄は熱いうちに打てというわけか。亜里沙は賢いな」

 父親が目尻をたらす。


「叶えてくれるかしら?」

 亜里沙が父親の顔を覗き込みながら訊く。


「神様は亜里沙の願い事ならなんでも叶えてくれるよ。来週には実行されるさ」


「よかった」

 亜里沙は後部差席に身を沈めて胸をなで下ろした。