「……お、おいっ…!」
なんで俺が狼狽えてんだ。
先月、その役割はこの女が担ってたはずだろ。
ナンパされて固まって動けなくなって、バカみたいにおろおろと狼狽えて。
そんな女が、一歩も譲ることなく強盗相手に立ち向かって。
……それで今、その女が、泣いて、
「…………こわ…か、った…!」
嗚咽は聞こえなかった。
ただ、必死に声を押し殺しているのが伝わった。
肩が震えている。
大して長くない睫毛には、キラキラと光る雫がいくつも付いていた。
赤く充血した瞳。
そんなに泣いたら明日、腫れるんじゃねぇか。
身体が勝手に、動いた。
「…もう大丈夫だ、安心しろ」
なんで俺、2回会っただけの女を抱きしめてんだよ。

