女は動かない。
ただ、犯人の男を真っ正面から睨み付けるだけだ。
いわゆる膠着状態を崩したのは、予想通り犯人の方だった。
「ご…ごちゃごちゃうるせぇ!!いいから金を出せっつってんだよ!!!!」
怒りに身を任せ、犯人が握るナイフは女の身体目掛けて振り下ろされた。
その瞬間。
「ぐ…あああああっ!!!!」
俺の手は、犯人の腕を強く掴んでいた。
軽く手刀を食らわせれば、いとも簡単にナイフは床に転がった。
「…なァ、お前に選択肢をやるよ」
男の両腕を背中側に回し、グッと力を込める。
呆気なく膝を着いた男に思わず嘲笑を零したが、本人はそれどころじゃないらしい。
どうせ、なにもしてこない俺のことを“ビビって動けないチキンな客”とか思ってたんだろ。
甘ぇんだよ、バーカ。
「このまま両腕をへし折られたいか、それとも潔く自首するか」
男は頑なに身を縮こまらせ、口を開こうとはしなかった。
それどころか、どうにか逃げ出そうと暴れ始めた。
…はぁ、諦めの悪さも相当だな。
「……タイムオーバーだ」
ぼきんっ
まァ、片腕で勘弁しといてやるからよ。
せいぜい、寛大な俺様に感謝するんだな。
激痛に悶える男の声を掻き消すように。
遠くから、けたたましいほどのパトカーのサイレンが近付いてきた。

