「(……あの女、いつだったかナンパされてたやつか?)」
さらりと肩先に触れる茶髪には見覚えがあった。
…なんで女のくせに、またこんな夜中にシフト入れてんだよ。
バカか、ナンパされたばっかだろうが。
あまりの学習能力の無さに、半ば呆れた。
なんか思い出したらイライラしてきたな…さっさと買って帰るか。
そう思った、瞬間。
「動くな!!金を出せっ!!!」
男が客にナイフを突き付け、声を張り上げた。
幸か不幸か、俺と人質以外に客はいなかった。
……チッ、面倒臭ぇ。
無視して帰ってやろうかとも思ったが、逆上した犯人が人質やあの女を刺すかもしれない。
そう考えると、さすがに動けなかった。
仕方ねぇ、相手すっか…。
こっちは早く帰りてぇんだ、強盗さんよ。
おもちゃみたいなナイフ振り回しやがって、ナメてんのか。
冷めきった瞳で男を睨み付けながら、ガシガシと髪を掻いた。
「(んじゃ、さっさと片付…)」
俺が踏み出すよりも僅かに早く―――あの女は、とんでもない行動に出た。

