女は涙目で俺を見た。
特に胸が高鳴るわけでもなく、俺は女を一瞥してから男に向き合った。
威圧感たっぷりに見下ろせば、男はみるみるうちに狼狽え始める。
……度胸もねぇくせに、ナンパなんかしてんじゃねぇよ。
「な、なんだよ、お前!」
それでも尚、刃向かおうとする男に―――俺は吐き捨てるように言った。
「下衆が。さっさと消え失せろ、目障りなんだよ」
この時、俺はいつものゆるいジャージにスニーカーだった。
つまり“叡京高校の蕪城美葛”だと判明する要素はなにもなかった。
だから素の俺を包み隠すことなくさらし、盛大な毒を吐くことができた。
今思えば、こういう身勝手な行動が自分の首を締めていたんだが。
「っ、くそ…!!」
負け犬の遠吠えにすらなっていない言葉を悔しそうに呟き、男は走ってコンビニを飛び出して行った。
「…あ、あの、ありがとうございました…っ!」
俺は無言で右手に持ったままだったカゴをレジに置き、女の顔を再三見ることなく財布を取り出した。
女はなにか言いたそうにしていたが、俺の態度を見てすぐに会計を済ました。
いつまでもグダグダと礼を述べようとしないところは嫌いじゃないと、なんの意味もなくふと思った。
―――次にこの女と会ったのは、翌月の深夜2時頃だった。

