「良いぜ、教えてやるよ。その代わり、高くつくからな?」
眼球ごと溶けてなくなってしまいそうな極上の笑みを見せてから、蕪城先生は耳元で囁いた。
耳に触れた吐息から、じわじわとなにかが侵されていく気がした。
「……あれは、2年くらい前だったか―――」
俺がまだ、叡京高校で教師をしていた時だ。
うだるような暑さの夏が終わり、少し秋の風を感じ始めた10月の初め。
23時頃、俺はふと腹が減ってコンビニに行った。
まだ春姫がバイトをしてるなんて知らなかった、あのコンビニに。
俺は適当に腹を満たせそうなものを見繕って、次々とカゴに放り込んだ。
その時だ。
レジの方で、店員の腕を掴んでいる男が視界に入ったのは。
「や、やめてください…!」
店員は女1人だった。
さすがに無用心にもほどがあるだろ…、と知りもしない店長を罵る。
「良いじゃん、メアドだけ!ねっ?それとも、このまま…」
「離してくださいっ…!」
「ほら、こっちに出てきてよ」
にやにやと薄気味悪く笑う男の浅はかな考えが、手に取るようにわかった。
時間は、深夜目前。
このままホテルにでも連れ込もうと思っているんだろう。
卑しさが前面に滲み出た締まりのない不細工な顔に、吐き気がした。
「………おい、なにしてんだテメェ」
だから―――俺は別に、女のために動いたわけじゃなかった。

