俺は褥に寝転んだまま、綾子に近くに来るように言う。
綾子は、おずおずと俺のすぐそばまで来て座った。
「えっと、大丈夫…ですか?」
「ああ、日向の奴が勝手に騒いでいるだけで、痛くも痒くもねえよ。」
「そう、良かった。」
綾子は嬉しそうに笑う。
たったそれだけのことで、暖かい気持ちになるから不思議だ。
「…。」
「…。」
俺はなかなか話を切り出せず、綾子も話そうとしないため、妙な沈黙になる。
その空気が嫌で、意を決して俺は夢の話をし始めた。
「…夢を見た。」
「え?」
「どこもかしこも、薄墨色の銀の世界の夢だ。
天高く建物がそびえていて、その建物も、橋も、地面ですら薄墨色の銀の世界。」
あの、夢で見た世界のことをうまく言葉にできない。
全て、見たことのないものだったから。
しかし、綾子は俺の話が伝わったようだ。
とても驚いた顔をしている。
「“あの世界”が分かるか?」
畳み掛けるように聞いてみる。
綾子は、小さく頷いた。
「貴方の見た、そこはきっと私のいたところ。
六百年先の、未来。」
綾子は確信したように言う。
「その建物は、高層ビル。
薄墨色の地面は、アスファルトの道路。
絶対に、そう。」
綾子の口から、聞きなれない言葉がいくつも出てくる。
そんな些細なことで、とても寂しい気持ちになる。
やはりこの姫は、遠く離れた所から来ているのだと。


