朝一番、綾子が部屋に帰ってから正家を呼び出した。
正家はすぐに来て、脇息にもたれた俺の前に正座する。
「何故呼ばれたか、わかるか?」
眉間には濃い皺、極限まで低い声で問う。
正家はそんな俺に少し震えた。
「さ、さあ…。
なんのことやら。」
正家はあくまで白を切るつもりらしい。
そいつは上等。
「昨夜、綾子が俺の部屋に来た。
おかしいよなぁ、俺は呼んでねえのに。」
「…。」
正家は何も答えない。
俺はさらに追い撃ちをかける。
「綾子に聞いたら、お前がどうしてもと言うからだと言った。
褥もいつの間にか二組になっていたぞ。
昨日、褥を用意したのはお前だったよな?」
正家は言葉に詰まる。
汗もかいている。
俺はそんなことは一切気に留めず、正家を睨む。
「だって、公方様は…」
「何だ?」
「公方様は姫をまだただの一度もお召しでないと聞きます!!
せっかくの御側室様なのに!!!
ゆえに、僭越ながら私がご協力したまで!!!
僭越ながら!!!」
正家はもうどうにでもなれ、と言うように叫んだ。
ガバッと立ち上がりながら。
「正家、それをなんと言うかしっているか?」
「はい?」
「余計なお世話だっ!!!!」
俺も叫びながら立ち上がる。
「お前なんか小姓失格だっ!!
暇を出す!!」
俺は続けてそう叫ぶ。
「そ、そんなぁ~」
正家はへなへなとその場に崩れ落ち、そのままはいつくばって俺の所にくる。
「それだけは御容赦をっ!!
私は公方様無しでは生きて行けませぬ!!!」
俺の足を掴んでそう叫ぶ。
「放せっ!!
気持ち悪い!!!」
「公方様ぁ~!!!」
正家から逃れ、後ずさりする。
正家は、俺から離れたくないと追い掛けてくる。
それからしばらく、追い掛けっこが繰り広げられた。


