「千四百二十三年?」
恐らく今年のことだろうが、今は応永三十年だ。
それに、そんな数え方は知らない。
だが、金に目がくらんだわけではないようだ。
「何でもないわ。」
「それより、さっきの書物を見せろ。」
そのためにわざわざ名乗ったのだ。
綾子はやはり躊躇ったが、ゆっくりと差し出した。
「…何だ、これは?」
表紙には見たこともない文字が大きく書かれていた。
いや、一字一字拾って行けば読めなくはないが、俺の書く文字とは明らかに違う。
そして、文字の隣には甲冑を着た侍の絵。
何なんだ?
「何と、書いてある?」
俺は思わず問う。
「…高校、日本史資料集。」
こうこう?
日本史資料集?
「どういうことだ…?」
言葉が揺れる。
鼓動が早い。
変な汗も出て来た。
「これは、この国の歴史が書いてある、本。」
この国の歴史?
「お前は、何処から来た?」
「遠い、遠い未来。
…きっと。」
ぐらり、と世界が揺れた感じがした。
鼓動はより早く、身体中から汗が吹き出している。
「未来とは、どれ程先の未来だ?」
俺はそれを悟られぬように、さらに綾子に質問を投げかけた。
「…だいたい、六百年。」
六百年先の未来?
綾子は本当にそこから来たのか?
いや、来たのだろう。
あの着物、この書物。
未来の物ならば少しは合点がいく。
「どうやって来た?」
駄目だ、考える前に言葉が落ちる。
「突然地面に黒い穴が空いて、それで、落ちて来たの。」
だから降ってきたのか。