「ニンジャ?
そんな言い方もあるのか。」



「あー、忍び?」



「そう、竊盗(しのび)。」



「って、違う!
私は忍びなんかじゃないわ!」



「だろうな。
お前みたいな竊盗がいたら、世も末だ。」



「ひどい!」



「あはは!」



俺は思わず笑い出した。



こんな風に笑ったの、いつぶりだろう。



宴や余興で田楽や猿楽を見て笑うことが無かったわけではないが、思わず笑い出したのはかなり久しぶりだ。



綾子はぶすっと頬を膨らませていて、余計面白かった。



しかし、すぐに笑いは冷めた。



「公坊様ぁ!」



管領のクソオヤジのせいで。



「こちらにいらっしゃいましたか!
良うございました。
さ、早くお支度を。
朝の会議へ参りましょう。」



チッ。



俺は舌打ちをして思いっ切りクソオヤジを睨む。



クソオヤジはそんなことは気にせず侍女や小姓に命じて俺の支度をさせている。



「公方様、こちらの姫は一体…?」



クソオヤジは綾子に気づいたようだ。



「あぁ、俺が連れてきた。
部屋を与える。」



「…は?」



二人の声が重なる。



「では、御側室にお上げになると?」



「まあ、そういうことだ。」



「承知つかまつりましたぁ!」



このクソオヤジ、急にやる気出しやがって。



クソオヤジに苛々しながら綾子を見ると、綾子は口をパクパクさせて言葉にならない言葉を呟いていた。