「近くに。」 「え…?」 綾子は手を伸ばせば届きそうな位置にいる。 それなのに、まだ、遠い。 届かない。 もっと、もっと。 俺の意思をわかったのか、綾子はゆっくりと側に寄る。 それでも、俺には遠すぎる。 もっとだ。 手を伸ばして、抱き寄せる。 ふわりと暖かさに包まれる。 ああ、この暖かさだけは本物だ。 肌で確かに感じる、この暖かさは。 今、確かにこの姫はここにいる。 俺の、腕の中にいる。 それがどれほどの奇跡なのか、わかっているつもりだった。