「えっ……ちょ、日向………」
「どしたぁ?」
どしたぁ? ……じゃないって、この人さっきまで音楽番組でてたし!!
あんぐり開いた口が閉じないあたし。
「あ、和也俺のちっさい時からの仲だし。一応、信用できる奴だから。心配なし!!」
「んははっ、そゆこと! 奈央ちんよろしく〜」
なんて玄関で笑いながら話してる2人を、黙って見てるしかないあたし。
まさか、日向が芸能人の友達連れてくるなんて。
思ってもみなかったっていうか……日向も芸能人ってことをすっかり忘れてたかも。
「お二人とも、それでは私は失礼しますけど。くれぐれも芸能人として自覚を持った行動を」
南さんと日向の後ろから、冷静な声が聞こえて。
その方を見ると、いつもの落ち着いた表情で立っている中津さんがいた。
日向の帰りは、いつもこうやってマネージャーの中津さんかお付きの人が玄関まで送ってくる。
「南さんは、明日の八時に迎えが来ますのでそれまでには準備を済ませて下さい。日向さんは、私が九時にお迎えに上がります」
黒いスケジュール帳を開いた中津さんは、淡々とした口調で明日の日向達の予定を知らせる。
「分かった」
「了解でーす♪」
納得した南さんと日向の返事を聞くと、背を向けて部屋を出ようとした中津さんに、ホッと少し気が抜ける。
「あ、それと」
が、何か思い出したように振り向いた中津さんは、鋭い眼差しであたしを見た。
猫背になった背筋が、またピンッとが張る。
「くれぐれも、今日みたいなことはないように」
「はっ……はひっ!」
噛みながらもそう言うと、では。と言って中津さんは帰っていった。
ふぅ……怖かった………。
改めて、南和也といえば、確か歳は日向とおんなじくらい。
すっごい歌がうまくて、今、女子高生から大人まで幅広い層に人気のあるアイドル歌手。


