山本くんの足音が、完全に聞こえなくなった図書室前の廊下で。


「へぇ、初耳」


からかうような響きを含んだ低い声が耳元に落ちる。


「知らなかったな。
おまえの名前。
男では、オレしか呼んじゃいけなかったのか?」


そんなことをあたしの耳元で低く小さく問いかけ、いぢわる王子はあたしから体をスッと引き、壁に寄りかかって顔を斜めに傾けた。


「み・ど・り・か・わ・さん?」