「やめろっ、助けてくれ、何でもする…っ」

「殺せばいいじゃない」

「…もう、どうだっていい」


希望に縋りつく醜い執念に満ちた顔。
諦めきった氷のように感情のない顔。
絶望に溢れ、殺されることを望む顔。

すべて覚えている。

だからあいつの家族を殺した時のことだって、例外ではなかった。




――うだるような熱帯夜。

窓の向こうからは、楽しそうに笑いあう平和な空気が流れてきた。


今からそれが、どんな風に打ち壊されるのかも知らずに。

玄関のチャイムを押すと、何の疑いもなく母親らしき人物が出てきた。
それに続くように、父親や子供たちも玄関にやってくる。

これ以上ないほど好都合だった。


息の根を止めるのにかかった時間は、ほんの一瞬だった。
瞬きする間もなかったと思う。