「な、なんだよ・・・」
ウサギさんの顔はどうやら仮面のようだ。
中身は十六、七歳の少年と思える。
大体、同い年くらいだろうか?
着ているものは、襟と袖が赤いチェックの可愛らしい白いシャツに。同じチェックの短パン。
「何だってんだよ」
髪の毛は栗毛色。
背丈は羅衣と同じくらいか、少し高めだろう。
しかし何故だろうか。彼の細い手足を見ていると、
「なんか言えっつうの!」
「殺意らしきものが沸きます」
「うぉい、イキナリ殺人予告!?」
「・・・・・・・・・・はい?何かおっしゃ・・・・・・どうかしましたか?」
ふと、観察を終えて正気に戻った羅衣の瞳に映る少年は。
何故か羅衣から距離をとっている。
「ど、どうかって・・・・・・何でオレはテメェに殺されなきゃなんねえんだよ!」
「え、何で私が貴方を殺さなければならないんでしょうか?」
「なっ・・・・・・?」
怒鳴る少年に、彼女はいたって冷静だ。というより、状況を飲み込めていないというのが正しいが。

「まあ、そんなことより・・・・・・ここは何処で、貴方は誰で、どうして私はここにいるのでしょうか?」
「っとにかく、着替えろ。全ての質問はその後だ」
あくまでマイペースな彼女に大きく息をはいて、少年は羅衣に一つの袋を押し付ける。
「・・・ここでですか?」
中に服が入っていることを確認すると、床に座ったまま、少年を見上げた。
「ばっ・・・なわけねえだろ!あっち、あっちの扉開けると部屋があるからっそこで!!」
怒鳴りながら扉を指差す、その指先は真っ赤で。
羅衣が何も言わずに着替えだしたら、どうしたのだろうか。
苦笑しながら立ち上がり、その扉へと向かう。

「あ、そういや・・・」
扉を開けようとした羅衣を、少年が呼び止めた。
「はい?」
「テメェの名前、何だ?・・・まだ、聞いてなかったろ」
「ああ・・・羅衣、です。高遠 羅衣」
にこりと微笑んで、告げる。
「ライ・・・ね」
小さく呟いて、頭に刻み付ける少年。
「俺の名前はエリックだ。まあ・・・これから、よろしく」
どうして、これからなのか。
何がどう、よろしくなのか。
その名前は、本当に本名か。
羅衣は戸惑いながらも、少年―――エリックの差し出した手をとった。
「はい」
全てを隠した。微笑と、共に。