翔って、おかしい……

くすくす笑いながら部屋に戻ると、おみやげだと言っていた包みを開けた。

手の平サイズのうさぎのぬいぐるみが『合格祈願』のお守りを抱っこしていた。

「かわいい!」

こんなに忙しいのに、翔は一体どんな顔してこれを買ってくれたんだろう。

うさぎのぬいぐるみに付いたチェーンを机の上の蛍光灯にぶら下げると、椅子に座り、頬杖をつきながら、チョンとうさぎをつついた。

今日は不思議な日だった……

すごく楽しくて、ママも私も心から笑ったのは本当に久し振りだったような気がする。

頬を緩ませる私の目に、『目指せT大!現役合格』の文字が飛び込んで来て、「いけない!」と気が引き締まる。

パパがもういないんだもん。

浪人も私立に行くゼイタクも絶対に許されない。

それに、パパもこの受験をすごく応援してくれてた。

失敗なんか出来ない。

私は机からノートと筆記用具を引き出し、本棚から参考書を取り出すと、机に向かった。

どれくらい時間が経ったのか、玄関のチャイムの音にはっと現実に還る。

ママが出たみたいで、廊下をパタパタ走る音に、部屋の扉を開けて、ヒョイと顔を出した。

「まぁ、いらっしゃい。お待ちしてました」

ママが翔を家に上げる。

「綾乃!翔さんがいらっしゃったわよ!!」

来た!

と、同時にしまった!と慌てふためく。

これ、片付けないとっ!!

「まだ入れないで!」と言う声も虚しく、「お邪魔しま~す」と翔が部屋に入って来る。

彼は部屋に入るなり、目をまん丸くしてぷっと噴き出した。

『演歌の花道』
『男一代渡り船』
『涙の日本海』

部屋に貼ってある演歌のポスターを剥がそうとしていた手を翔の手が止める。

「貼っとけば?」

翔はママが出してくれたテーブルに勉強道具を一式出し、腰掛けながら、くくっと笑う。

「俺も好きだよ」

えっ?!

「橋本壮吉さん。俺達、芸能界の大先輩だもんな」

あ、ああ……
『はしもとそうきち』のことかぁ……

一瞬、自分の事を好きだと言われたみたいで、心臓がバクバクと波打っていた。