翌日、家に帰るとまだ撮影は行われていた。

今回の撮影は映画みたいで、1週間の撮影期間だとお知らせの手紙がポストに入っていたっけ。

エレベーターのボタンを押し、1階で待っていると、エレベーターに乗って下りて来た翔と鉢合わせてしまった。

思わず、彼のぶすっとした顔に後ずさってしまう。

やっぱり、余計なことしちゃったんだ……と後悔。

エレベーターを降りながら、「昨日はサンキューな」と翔が私の頭をポンと叩いた。

彼の温かい手がほんの少し私に勇気をくれる。

「あの、葛城(かつらぎ)さん!」

翔が驚いたように振り向いた。

「ハンカチ、有り難うございました」

私はカバンからハンカチを取り出そうとした。

その手を翔が押し返す。

「持ってて、それ」
「え?」
「いいから持っててよ。この服、ポケットないし。それに、これから、君んちに寄ろうと思ってたんだけど、急遽、別の取材が入っていけなくなった。夜の撮影前には顔出すから、それまで持ってて」

翔は手を振ると迎えに来たライトバンに乗り込み、そのまま走り去ってしまった。

ポツンと取り残された私は、ハンカチを握り締めて、彼の言葉を心の中で繰り返す。


『これから、君んちに寄ろうと思ってた』

『夜の撮影前には顔を出す』




翔が……





うちに……




来る?



なんで(._.)?

なんでぇぇぇ<(≧□≦)>


はっ!

いけない。

部屋、片付けなきゃ。

って、その前に、ママにこのこと言わなきゃ。

パニックモードに突入したまま、エレベーターに飛び乗った。