「栄!」

翔がものすごい勢いで部屋に飛び込んで来る。

翔は私を見るなり、マネージャーの栄さんと私の間に割って入った。


翔の煌びやかな舞台衣装の背中が、そっと手を伸ばせば届きそうなくらい、私のすぐ目の前にある。


「いくらあんたでも綾乃に何か言ったら許さない」


綾乃?


今、翔、『綾乃さん』じゃなくて、『綾乃』って言った……



「私は別に何も言ってないわよ。ね?綾乃さん?」


栄さんはテーブルの上にあった煙草に手を伸ばすと、ライターで火を点けて、ふーっと吐き出した。

固まっている私を振り向いて翔が見る。


一瞬、栄さんの目線が鋭く光り、『話を合わせなさい』とばかり、顎をしゃくった。


私はただコクンと頷き、翔を見上げた。

「行こう、綾乃」

翔は私の腕を掴み、出口まで引っ張っていく。

そして、後ろを振り向くと、栄さんをものすごい目で睨んだ。


「あなたや事務所の社長には恩も感じているし、感謝している。だから、俺にその恩をアダで返さざるを得ないような真似はしないで下さい」