3月9日、あたしは高校3年間の過程を終えた。といっても、3月中は高校生なのだけれど。



「幸ちゃん!!」



遠くの方から、葉月の声が聞こえる。



声のする方へ体を向けると、誰かがあたしの手を握った。



「幸ちゃん、葉月だよ。」


あたしの手を握りながら、葉月が声をかけてきた。



「葉月…桜は咲いてる?さっきから、顔に何かが当たるの。」



「咲いてるよ!満開とはいかないけどね…。ほらっ。」



葉月は、あたしに何かを触らせる。これは…。



「桜…?」


「そう、桜だよ…。」



あたしの目は、もう見えない。進行が早かったせいか、完全に失明してしまったのだ。



それでも…前よりは絶望していなかった。こうやって、皆が支えてくれたから。


あたしの目が見えなくなっても、こうやって手を引いてくれる人がいたから…。


「今日も坂原君と帰るの?」



葉月の言葉に、あたしは頷く。



「校門で待ち合わせしてるの。陽は教室にいろって言ってたけど、あたしだって一人出歩けるんだから!って抗議したら渋々許してくれた。校門までだけどね?」



あたし、視覚障害者が使用する白杖を、葉月に見せながら苦笑いを浮かべた。



「もう…。幸ちゃんは無理ばっかりして!」



葉月の言葉に、あたしは笑う。



「大丈夫。あたしが無理しても、支えてくれる人達がいるから。」



あたしの言葉に、葉月は黙ってしまった。多分…嬉しそうに笑っているのだろう。何となくだけど…そうだったらいいなと思う。



「校門まで送るよ。」



「いいの。一人でやらせて?やれる事は、頑張ってやりたいの。」



あたしはそう言って笑った。