あの後、七瀬は何も気にする事なく話しかけてきた。だから、話しずらさや気まずさも無く話せた。
「…そろそろ帰らないと…。」
時計を見ると、夕方18時を回っていた。
「送る。服も乾いてるだろ。」
七瀬の言葉に甘えて、送ってもらう事になった。
「ありがとう…七瀬。」
「…いいから着替えてこい。」
照れている七瀬の顔を見て、つい笑みが零れてしまう。
「笑うな。」
ゴンッ
「痛っ!」
頭に、七瀬の拳が落ちてきた。
「痛いよ…。七瀬、あたしの事先輩だと思ってないでしょ…。」
あたしは頭をさすりながら、七瀬を睨みつける。
「良く分かったな。」
七瀬はシレッと答えた。
こんなたわいもない会話が、楽しい。七瀬はあたしを気遣かって、こうやって構ってくれている…。
そんな不器用な優しさが、嬉しかった。
「ほら、行くぞ。」
「うん。」
七瀬に手を引かれて、あたし達は家を出た。


