「全て忘れているわけではないらしい。ショックを受けた原因である一部分だけが抜け落ちたように失う記憶喪失だと言っていた。他にもストレス障害等も起こりうる可能性がある。」



京太郎は弱々しく微笑んだ。



「…幸は、私達の事を、とても警戒している。でも、坂原君にだけは心を許しているみたいだ。どうか、力を貸してくれないか?」



京太郎は深々と頭を下げる。



「僕に出来る事があれば、何でもやります。誰の為じゃなく、幸さんの為に…。」



坂原の言葉に、京太郎はまた頭を下げた。



「情けない…。自分の子供すら守れずに、こうして君に頼む事しか出来ないなんて…。」




悔しそうに壁に手を付く京太郎を、坂原はただただ、見つめている事しか出来なかった。