よっしゃ、恋愛小説を書こう

気がついたらあたしは立ち上がっていて、廊下に出て、啓介が行ったほうへ歩いていた。ちょっと小走り。

階段のとこへ行くと、啓介は上へ上がっていっていた。その後ろを、ばれない距離を開けてついてく。

屋上は開いてないはずだから、出られない。でも、屋上手前の階段は、普段ほとんど人がいない。

もうすぐホームルームが始まる時間だから、なおさら。

人がいない場所。呼び出し。啓介のうわさ。教室にいないさとこ。

(あれ、これ、シチュエーション揃っちゃってない?)

「――もりなの?」

「っ」

上のほうから声が聞こえて、ハッとした。息を殺して、聞き耳を立てる。上から下を見たときにばれたらまずいから、手すりのほうにぎりぎりまで寄った。

「どうして、答えを先延ばしにしてるの?」

さとこの声だ。

啓介のため息も聞こえる。

「……急かさないでくれよ」

「意気地なし。これじゃ、私なんのためにいるのかわかんないじゃないの」

「悪い」

「謝ってほしいわけじゃないし」

なんだろう。

重い話……かな。

だけど……、二人からはなにか、同じものを共有している雰囲気を感じた。

あたしにはわからない話を、二人がしてる。

あたしにはしない話を、啓介がさとこに。

……あれ。私いま、嫉妬してる……?