よっしゃ、恋愛小説を書こう

「あのねえ、なんたって野球部のピッチャーで、レギュラーでしょうが。大会とかでも活躍してるみたいだし、ローカルテレビじゃよく取材もされてんのよぉ? あれでけっこうな有名人さ。ときめく女の子ぐらいいるだろうね」

「でも、啓介だよ? 暇なときはいっつも、ずーっと『吾輩は猫である』読んでるヤツだよ?」

「そこがむしろいい、って話もあんのよ。運動部だけど知的なイメージっていうか」

「はあっ?」

理科室でぐーすか居眠りしている背中を思い出すあたしには、どうしても啓介と知的という言葉が結びつかない。

ていうか、信じ、られません。

「まあね、幼馴染みでずっと見てりゃ、ヘンな感じだろうけどね。今田くんはモテるよ、フツーに」

「信じられない」

「ふふ。幼馴染みだからって余裕かましてると、どっかの女に持ってかれちゃうかもねえ」

「ちょ、それっ、どーゆー意味よー!」

なんか勘違いしているらしいよっちゃんに、スポーツタオルを投げつける。

顔面からそれを受けた彼女は、わざとらしく「ぎゃーっ」とか叫んだ。

ふん、と鼻から息を抜いて、もう一度啓介を見る。

コーチのおじさんが打ち出した白球を、ちゃんと受けて一塁へ放る姿は、あたしも感心するくらいキレがあった。

「そうやって見つめてても冷やかされないのは、幼馴染みの特権だねえ」

「うっさい、よっちゃんのバカ」