自室に戻った灑梛は、さっそく茶封筒を開封し、相手の情報を確認していた。

『おいおい…マジで雑魚じゃねぇか…
ったく、んなん瑞希に殺らせろよ』

そうは言っても、僅かに口端が上がっている辺り、速く殺りたいという気持ちが伝わってくる。

「俺が、何だって?」

美しく澄んだ、男声。
紛れも無い、灑梛の相棒の瑞希である。
灑梛はその声を聴いた瞬間、立ち上がり、机に向かった。

「わー、シカト?ねぇ、灑梛ちゃんってば…うわッ!!!??」

瑞希が驚くのも無理はない。何せ灑梛は机の上にあったハサミを、振り向きざまに凄い速さで投げたのだ。

そしてそのハサミは、瑞希の首の左スレスレの所で、入り口の木枠に刺さっていた。

「ちょっと~灑梛ちゃん怖いよ?何か悪いコトでもあった?」
『あぁ。』
「へぇ、何。俺が相談に乗」
『黙れ、誰が貴様なんぞに相談するか。したとしても、それはこの世の終わりだ。あと、ちゃん付けするな、気色悪い』
「まぁまぁ、怒るなよ。
刃物は人に向けちゃいけませんって、習わなかった?」

灑梛は瑞希を一瞥して答えた。

『習わなかった。寧ろ、刃を向けろと教わった。…散々人を刺しといて、何を今更』

ごもっともである。
二人は決して仲が悪い訳ではない。でなければ10年も相棒としてやっていないだろう。しかし、瑞希が灑梛の部屋に来る度このようなやりとりをしているので、木枠には生々しい刀傷が多い。