『あの…』
『はっ』
『いや、あの……どなた?』
『わたくしはここの一職員でして…』
いやいや。
なんでそんな人にいきなり謝られなきゃならないの?
『ふ、藤峰家のご令嬢に触れるなど…』
……え"。
な…なんで分かったの?
てかそれ言わないでよ!
せっかく誰一人気付いてないのにさ。
『大変申し訳ございませんでしたぁ!』
…なぜ、こんなにも謝るのかというと。
恐らく古い掟のせいだと思う。
今の藤峰家はそんなことないんだけど、藤峰の姓を持つ前、うちはなにやら大変なフランス貴族だったらしい。
だいぶん昔のことだし、貴族の人間には半径一キロ以内に近付くなみたいなそんな空気が流れてたそう。
そのならわしが後を引いてか、今でも触れることは許されていない。
本来こうして、嫡子であるあたしが一人でへらへら外を出歩くのも禁止されてるんだ。
貴族なんて…ねえ?
そういう掟ももう古いのにね。
『もういいから頭を上げなさい。今後気を付けるように』
『はっ…』
こういう時、例え自分に非があろうとも…決して謝ってはいけない。
常に凛とした態度を保て。
小さい頃から、父様に嫌というほどそう言い聞かされた。

