――楓サイド――


「お疲れさん」


久々に全力で演奏をしたその後、会場を出ると待ち伏せていたかのように蓮二が片手をあげながら言った。


「……」


ちらりと一瞬だけ見やり、通りすがる。


「いやー、真緒ちゃんに見せてあげたかったよ。喜ぶだろうね。『かっくん大好き!』…とかまた言ってくれるかもよ?」


「うるせぇよ」


いつだったか、「何があったのか僕にも見当がつかない」と言ったが……こいつ絶対分かってる。

見当どころか、恐らくすべて。

そういうやつだ。


そのうえでこんなこと言いやがるんだから嫌味な野郎だ。


「あ」


「あ?」


…決してオウム返しに聞き返したわけではなく…ただ単に反応しただけ。


「カメラだ。覚悟しといたら?」


「そんなもん要らねぇ」


「余裕だね」


余裕じゃない自信だ。

自分のバイオリンに自信を持ってんだよ俺はちゃんと。