500枚280円A4コピー用紙と百均の油性ペン極太

人間としての理性はともかく、鬼としての知性はついたらしいけだものは、自分がどこに拳を振り下ろしているのか、気づける。

鬼のすぐ足元に、自分が殺した女が転がっている。

コンビニのおでんが、その後ろにぶちまけられている。

「そうだよ」

人間の言葉は、まだ通じるかい?

「だれが、自分しか移動させられないと言った。――ふ。おもしろい芸当だろう?」

牛が興奮するような鼻息を上げて、鬼が拳をアスファルトから引き抜く。路面が捲れた。剥離したアスファルトが、鬼の手首でブレスレットになった。鬼は手械足枷をつけて描かれることもある。だから似合うぞ。

「褒めてもきっと、なにも出ませんよ」

「ち。けちめ」

しかし、ただの拳骨にしては恐ろしい威力だ。腕の振りもさることながら、その筋肉の硬さも異常だ。さっきのようななまくら刀では、今度は多少食い込むことさえできないだろう。

「なら、こうしよう」

手首からアスファルトを振り払った鬼が、再び突進してくる。

腕が振りあがる。

振り下ろされる。

ごぐんという、鈍い音。

それは、俺の、眼前で。

ただし拳が捉えているのは、鬼自身の、顔面。

「だれも、物体の全体しか移動させられんとは言っとらん」

ただ力任せに腕を振ればそうなる。特に、俺相手では。