人間としての理性はともかく、鬼としての知性はついたらしいけだものは、自分がどこに拳を振り下ろしているのか、気づける。
鬼のすぐ足元に、自分が殺した女が転がっている。
コンビニのおでんが、その後ろにぶちまけられている。
「そうだよ」
人間の言葉は、まだ通じるかい?
「だれが、自分しか移動させられないと言った。――ふ。おもしろい芸当だろう?」
牛が興奮するような鼻息を上げて、鬼が拳をアスファルトから引き抜く。路面が捲れた。剥離したアスファルトが、鬼の手首でブレスレットになった。鬼は手械足枷をつけて描かれることもある。だから似合うぞ。
「褒めてもきっと、なにも出ませんよ」
「ち。けちめ」
しかし、ただの拳骨にしては恐ろしい威力だ。腕の振りもさることながら、その筋肉の硬さも異常だ。さっきのようななまくら刀では、今度は多少食い込むことさえできないだろう。
「なら、こうしよう」
手首からアスファルトを振り払った鬼が、再び突進してくる。
腕が振りあがる。
振り下ろされる。
ごぐんという、鈍い音。
それは、俺の、眼前で。
ただし拳が捉えているのは、鬼自身の、顔面。
「だれも、物体の全体しか移動させられんとは言っとらん」
ただ力任せに腕を振ればそうなる。特に、俺相手では。
鬼のすぐ足元に、自分が殺した女が転がっている。
コンビニのおでんが、その後ろにぶちまけられている。
「そうだよ」
人間の言葉は、まだ通じるかい?
「だれが、自分しか移動させられないと言った。――ふ。おもしろい芸当だろう?」
牛が興奮するような鼻息を上げて、鬼が拳をアスファルトから引き抜く。路面が捲れた。剥離したアスファルトが、鬼の手首でブレスレットになった。鬼は手械足枷をつけて描かれることもある。だから似合うぞ。
「褒めてもきっと、なにも出ませんよ」
「ち。けちめ」
しかし、ただの拳骨にしては恐ろしい威力だ。腕の振りもさることながら、その筋肉の硬さも異常だ。さっきのようななまくら刀では、今度は多少食い込むことさえできないだろう。
「なら、こうしよう」
手首からアスファルトを振り払った鬼が、再び突進してくる。
腕が振りあがる。
振り下ろされる。
ごぐんという、鈍い音。
それは、俺の、眼前で。
ただし拳が捉えているのは、鬼自身の、顔面。
「だれも、物体の全体しか移動させられんとは言っとらん」
ただ力任せに腕を振ればそうなる。特に、俺相手では。

