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冗談を交わしているうちに、鬼が起き上がる。が、やはりいびつだ。両腕が自身の体と同じほどありながら、片足が依然として人間のそれなのだ。足で立つよりも、両腕で歩いたほうがよほどバランスが取れよう。
と、笑おうとしたのが、いけなかったか、鬼がまた咆哮した。やかましい。音の波に、電線が揺れる。左腕に刺さっていた日本刀が、筋肉の圧に負けたか、砕ける。その破片が、散り散りに飛ぶ。峰月が短いうめき声を上げて耳を塞ぐ。肌がちりちりと刺激された。頬が痒くなる。いや、むしろこそばゆい。
「……成るか」
そして――鬼の体が――内側から、膨れ上がる。豪腕健脚、筋骨隆々のケダモノが、見事に出来上がった。なるほど、首と肩のラインがなだらかに繋がっているとは、いい筋肉を背負ったではないか。そういうのを世間では、ゴリマッチョと呼ぶらしいぞ。
「組長」
心を読まれる俺が、言うように――
「いい加減、手を抜くのやめてください。そうやって肝心な部分を引き伸ばそう引き伸ばそうとするの、悪い癖ですよ」
とうとう峰月が、俺を窘めた。
「……わかった。峰月、下がってろ。怖かったら、全力で逃走してもかまわない」
「なに言ってるんですか組長。死ぬときは一緒ですよ」
「心にもないことを言うな」
「あっら? 組長、読心術できましたっけ?」
戯言のさなかだというのに、鬼が突進してくる。愚鈍な今までとは違い、速い。疾走に合わせて振り被られた鉄球のような拳が、闇に残像を示しながら打ち出されてくる。
人間が食らおうものなら、吹っ飛ぶどころか、その場で、一瞬で爆砕される威力だろう。
「当たればな」
ごぐん、という鈍い音は、その拳がアスファルトを穿ったもの。そう、アスファルト。残念だが俺には当たっていない。
ただし、前提。
俺は動いていない。隣に峰月もいる。
冗談を交わしているうちに、鬼が起き上がる。が、やはりいびつだ。両腕が自身の体と同じほどありながら、片足が依然として人間のそれなのだ。足で立つよりも、両腕で歩いたほうがよほどバランスが取れよう。
と、笑おうとしたのが、いけなかったか、鬼がまた咆哮した。やかましい。音の波に、電線が揺れる。左腕に刺さっていた日本刀が、筋肉の圧に負けたか、砕ける。その破片が、散り散りに飛ぶ。峰月が短いうめき声を上げて耳を塞ぐ。肌がちりちりと刺激された。頬が痒くなる。いや、むしろこそばゆい。
「……成るか」
そして――鬼の体が――内側から、膨れ上がる。豪腕健脚、筋骨隆々のケダモノが、見事に出来上がった。なるほど、首と肩のラインがなだらかに繋がっているとは、いい筋肉を背負ったではないか。そういうのを世間では、ゴリマッチョと呼ぶらしいぞ。
「組長」
心を読まれる俺が、言うように――
「いい加減、手を抜くのやめてください。そうやって肝心な部分を引き伸ばそう引き伸ばそうとするの、悪い癖ですよ」
とうとう峰月が、俺を窘めた。
「……わかった。峰月、下がってろ。怖かったら、全力で逃走してもかまわない」
「なに言ってるんですか組長。死ぬときは一緒ですよ」
「心にもないことを言うな」
「あっら? 組長、読心術できましたっけ?」
戯言のさなかだというのに、鬼が突進してくる。愚鈍な今までとは違い、速い。疾走に合わせて振り被られた鉄球のような拳が、闇に残像を示しながら打ち出されてくる。
人間が食らおうものなら、吹っ飛ぶどころか、その場で、一瞬で爆砕される威力だろう。
「当たればな」
ごぐん、という鈍い音は、その拳がアスファルトを穿ったもの。そう、アスファルト。残念だが俺には当たっていない。
ただし、前提。
俺は動いていない。隣に峰月もいる。

