500枚280円A4コピー用紙と百均の油性ペン極太

ドゥス、という鈍い音は、遠い。

「――おい峰月。それは、俺を助けたつもりか」

「いえ、ただの条件反射です」

「そうか。お前は反射で死地に踏み込むんだな。覚えておく」

言葉を交わす俺と峰月の距離は、メートルで十も二十も空いていた。

ゆえに、俺からは右手を突き出している鬼も、その鬼の伸びた腕に峰月が刃を突き刺しているのも、よく見える。

峰月は、俺が一瞬で安全圏に移動したことを、驚かない。俺に、瞬間移動能力があると知っているから。

鬼は、俺が瞬間移動したことを、己の右腕に刀が刺さっていることを、驚かない。阿呆だから。

鬼に、鬼語というものがあるかは知らないが、ようは雄叫びを上げる。優男のそれのままであった左腕が、内側から爆発するように肥大化し、筋肉の丸太になる。豪腕が、峰月にボディーブローを仕掛けたが、詮無かった。

まだ幼く小柄な部類に入る峰月は、あっさり刀を手放し、しゃがむ。それだけで、鬼の一撃は頭上をあっけなく通り過ぎた。峰月は冷静だ。しゃがんだスピードを活かし、人間の足のままである鬼の左足を蹴り払う。ただでさえいびつに膨れ上がった鬼の体は、無様に倒れた。そのとき、咥えられていた女が顎から外れ、宙を舞う。

異形に襲われるのは美女と相場が決まっていそうだが、化粧っ気のない、三十そこそこのばあさんだった。もっとも、深夜三時にコンビニへおでんを買いに行く女に、美貌を求めるのが酷か。

「組長、辛辣すぎます」

鬼を転がしてすぐこちらへ駆けてくる峰月が、また唇を尖らせる。

「せめて、ばあさんじゃなくおばさんって言ってあげましょうよ」

「甘いな峰月。女は十三を過ぎたら、あとは老けるだけだ」

「じゃあ私は去年から老け始めたんですね」

「残念だな。余生をしっかり生きろ」