500枚280円A4コピー用紙と百均の油性ペン極太

「仕事の時間だ。急ぐぞ。距離は」

紙切れを受け取った峰月は、また宵闇の彼方を見やる。

俺も、倣う。

深夜三時。太陽が仕事をするには、まだ早い。

その闇を細く伸びる電線は、極大の蜘蛛が吐いたと言われても信じられる。とでも思っておけば、峰月も多少ファンタジーを味わえよう。星とは違い、錯覚でもなく明確に明滅する信号。黒い海のように静まった町。闇の海。沈んでいるのは、家屋店屋の屋根屋上。峰月は思っているだろう。『屋』という文字が多すぎて、ごろが悪いと。誘蛾灯さながら点在する街灯は、白々しい飛び石。人の息吹が失せた、寒々しい、アスファルトとコンクリートの海である。


それが、俺の得ている視界であり、その感想だった。

だが峰月は違う。

この闇夜の彼方を見据え、そこに在るものを捉え、告げる。

「2ブロック先――、立体駐車場の屋上――あ」

「あ?」

「飛び降りました。下を人が通ったみたい。女の人。あ。頭から食いつかれてる。ああっ、提げてたビニール袋からコンビニのおでんがばしゃーん! あー、襲われてた人の胴と足が上下でぶちーん! きゃー、わー。……組長」

「なんだ」

「終わったらおでん買って帰りましょう」

「言うべきことはそこか?」

「ではなんと言えと」

「……そうだな。もう死んだんだから、バカは直っただろうな」

「でしょうね」