司さんは知らないから知りたいだけ
本当の事
本当に自分が望まれて生まれてきたのか…
本当の両親に愛された記憶がない
身体や心は大人になっても
そういう記憶がないから時々揺らぐ…
「…情けなくなんかないです。本当の事を知るのは誰だって怖いです、…。」
「……」
「…司さんは情けなくないです。みんなそうです、不安ででもそれを隠してるんです」
不安…
司さんは 黙って机に行き引き出しから一枚の紙を持ってきた
「…司さん、」
「唯一母が写っている写真だ。妾だから一枚も写真なんか残されてない…けど、父が亡くなる前に万年筆とこれをくれたんだ。オルゴール箱にいれて…」
写真は蒼井家の庭だろうか女の人が赤ん坊を抱いて控えめに笑っている
近くには亡き司郎様が寄り添っていた
「…綺麗な方ですね。」
「…京都で一番の美人だと父は自慢してたよ。小さい頃、離れで母の弾く琴の音にのせて歌う父の唄を聞いていたのが一番の幸せだった…」

