「お兄ちゃん、大丈夫?」
佑二はその声で我にかえった。心配そうに少年がこちらを見ているのが目に入った。
「ああ…大丈夫だよ」
佑二は肩で息をつくと答え、ふと辺りを見回した。
電車だった。どうなってんだ? また夢の中に戻ってきてしまったのか?
右手に痛みを覚えた。ずっと自分で強く握っていたらしい。手を広げると、さっきあのハンカチを握ったことを思い出した。
「お兄ちゃん、顔色悪いよ?」
さっきの少年が声をかけてきた。佑二は少年を見る。なんだ?この子は。
「お兄ちゃんも死んじゃったの?」
少年は聞きながら向かいの席に座る。まだ小さい様だが結構しっかりした印象の子供だ。
佑二はさっきの車掌が見せた自分の葬式を思い出した。そうか、俺は死んだんだっけ…。
「まだよく分からないけど死んじゃったのかもな…。君は?」
少年はあっさりと、
「死んじゃったよ」
と言った。
「僕ね、生まれた時から病気だったみたいでね、病院ばっかりだった。お父さんもお母さんもすごい優しかったんだ。」
こんな子供がこんな嘘をつけるわけがない。やはりホントにここはあの世なのか。
「だから僕はいつもお父さんとお母さんのこと、ここから見てるんだ。もうすぐ、僕に弟か妹が出来るみたい。」
少年は嬉しそうに笑った。